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デザイン思考 アイデア選択フェーズを成功させる 具体的な方法

Tags: デザイン思考, アイデア決定, アイデア選択, ワークショップ, チームマネジメント, フレームワーク

デザイン思考のプロセスを経て、チームで多くのアイデアを発想できたとします。しかし、そこからどのアイデアを具体化し、次のステップに進めるべきか。この「アイデア選択フェーズ」は、プロジェクトの成否を左右する重要な段階です。多数のアイデアを前に、どう絞り込み、どうチームの合意形成を図るかという課題に直面するプロジェクトマネージャーの方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、デザイン思考におけるアイデア選択フェーズの重要性とその位置づけを説明し、実践で役立つ具体的な手法をいくつかご紹介します。これらの手法を活用することで、客観的かつ効果的に最良のアイデアを選び出すことができるでしょう。

アイデア選択フェーズの重要性と位置づけ

デザイン思考の一般的なプロセスにおいて、アイデア選択は「発想(Ideation)」フェーズの後に位置します。多くのアイデアを量産する発想フェーズの目的は、できるだけ多様で斬新な選択肢を生み出すことです。一方、アイデア選択フェーズの目的は、それらの中から最も有望で、解決すべき課題(定義フェーズで明らかにしたPov: Point of Viewなど)に対して最も効果的であると判断されるアイデアを選び出し、次の「プロトタイピング(Prototyping)」フェーズに進めることです。

この段階を適切に行わないと、以下のような問題が発生する可能性があります。

アイデア選択は、単に多数決で決めるのではなく、特定の基準に基づき、チームで共通理解を持って行うことが重要です。

実践で役立つ具体的なアイデア選択手法

ここでは、チームでのワークショップなどで活用できる、代表的なアイデア選択の手法をいくつかご紹介します。

1. ドット投票(Dot Voting / Dotmocracy)

最もシンプルで手軽な方法の一つです。参加者に持ち点(ドットシールやペンでの印など)を与え、最も良いと思うアイデアに投票してもらいます。

2. N/3法(N/3 Method)

アイデアの数を段階的に絞り込んでいく方法です。アイデアの総数をNとしたとき、各参加者が約N/3個のアイデアを選択し、次のラウンドに進めるというプロセスを繰り返します。

3. 評価マトリクス(Evaluation Matrix)

事前に設定した複数の評価基準に基づき、各アイデアをスコアリングして比較検討する方法です。客観的な視点を取り入れやすい手法です。

その他の手法

チームでのアイデア選択ワークショップを進めるためのヒント

これらの手法を効果的に活用するためには、ワークショップの進め方も重要です。

  1. 目的とプロセスを明確にする: なぜアイデア選択を行うのか、どのような手法で、どのように最終決定に至るのか(あるいは次の候補を選ぶのか)を事前にチームに共有します。
  2. アイデアの内容を十分に理解する: 各アイデアについて、提案者が簡潔に説明する時間を設けます。質疑応答を通じて、チーム全員がアイデアの内容を正しく理解している状態を目指します。
  3. 評価基準を確認・合意する(評価マトリクスの場合): 評価マトリクスを用いる場合は、評価基準とその定義、必要であれば重み付けについて、全員が納得するまで議論します。
  4. 中立的なファシリテーション: ワークショップの進行役は、特定のアイデアに肩入れせず、全員が安心して意見を述べられる場を作ることが大切です。時間管理や議論の収束もファシリテーターの重要な役割です。
  5. 議論の質を高める: 点数や投票結果だけでなく、なぜそのように評価したのか、良い点や懸念点は何かといった議論を促します。特に、期待される効果や実現に伴うリスクについて深掘りすると、より洗練されたアイデア選択につながります。
  6. 選ばれなかったアイデアの扱い: 今回は選ばれなかったアイデアも、今後のプロジェクトで再検討したり、別の課題解決に活用したりできる可能性があります。アイデアとその簡単な評価理由などを記録しておくと良いでしょう。
  7. 次のステップへの接続: 選ばれたアイデアをどう具体化していくのか、次のプロトタイピングや検証の計画を共有し、チームのモチベーションを維持します。

実践例:製造業におけるプロセス改善アイデアの選択

ある製造工場で、生産効率向上とコスト削減を目指したプロセス改善のアイデア出しワークショップを実施しました。チームからは、設備のIoT化、AIによる需要予測の導入、作業手順の見直し、サプライチェーン最適化、エネルギー効率化など、多岐にわたるアイデアが発想されました。

これらのアイデアを絞り込むために、チームは評価マトリクスとドット投票を組み合わせることにしました。評価基準として「想定されるコスト削減効果」「導入の実現可能性(技術的・費用的・組織的)」「導入までの期間」「従業員の受容度」を設定しました。

まず、各アイデアについて提案者が説明した後、チームメンバー全員で評価マトリクスを用いて各基準に基づきスコアリングを行いました。マトリクスの結果、コスト削減効果が高く、技術的実現可能性も比較的高いと評価されたアイデアがいくつか浮かび上がりました。

次に、マトリクスで上位となったアイデアの中から、各メンバーが最も推進したいと思うアイデアにドット投票を行いました。これにより、データ分析に基づいた「特定の工程における作業手順の見直し」と「小規模なエネルギー効率化改善」という2つのアイデアが、チームの関心と実現可能性の両面から最も有望であると判断されました。

この後、選ばれた2つのアイデアについて、さらに具体的なステップを検討し、プロトタイプとしての小規模な導入や検証計画を立てる運びとなりました。このように、複数の手法を組み合わせることで、多様な視点からアイデアを評価し、チームの合意形成を促すことができます。

まとめ

デザイン思考のアイデア選択フェーズは、発想された可能性を現実のプロジェクトへとつなぐための重要な橋渡し役を担います。多数のアイデアの中から最も有望なものを選び出す作業は容易ではありませんが、今回ご紹介したドット投票、N/3法、評価マトリクスといった具体的な手法を活用することで、チームはより効率的かつ効果的に意思決定を進めることが可能です。

これらの手法は、単体で使用するだけでなく、チームの状況やアイデアの特性に合わせて組み合わせることで、さらに力を発揮します。重要なのは、評価基準を明確にし、すべてのチームメンバーがプロセスを理解し、納得感を持って参加できる場を作ることです。

ぜひ、この記事で紹介した内容を参考に、皆さまのプロジェクトにおけるアイデア選択のプロセスを設計・改善し、発想した素晴らしいアイデアを実行につなげていってください。