デザイン思考のアイデア発想を加速するSCAMPERフレームワーク実践ガイド
デザイン思考は、顧客やユーザーの視点から課題を深く理解し、革新的な解決策を生み出すための体系的なアプローチです。その中でも、多様なアイデアを創出する「アイデア発想」フェーズは、その後のプロトタイプ開発やテストの質を左右する重要なステップと言えます。
しかしながら、既存の思考パターンに縛られ、なかなか新しいアイデアが生まれない、あるいは発想が広がらないといった課題を感じている方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、アイデア発想を体系的に支援し、視点を変えることで発想を加速させるフレームワークであるSCAMPERをご紹介します。
SCAMPERフレームワークとは
SCAMPER(スキャンパー)は、既存の製品、サービス、プロセス、アイデアなどを改良したり、新しいアイデアを生み出したりするために使用されるチェックリスト形式のアイデア発想フレームワークです。それぞれの文字は、発想を促すための7つの異なる思考の方向性を示しています。
- S:Substitute (置換)
- C:Combine (結合)
- A:Adapt (応用)
- M:Modify / Magnify / Minify (修正/拡大/縮小)
- P:Put to another use (別の用途)
- E:Eliminate (削除)
- R:Reverse / Rearrange (逆転/再構成)
これらの問いかけを通じて、現在の状況を様々な角度から見直し、新たな可能性を発見することがSCAMPERの目的です。
SCAMPERの各項目と具体的な問いかけ例
デザイン思考のアイデア発想フェーズにおいて、SCAMPERの各項目は以下のような問いかけとして活用できます。検討対象(製品、サービス、プロセスなど)に対し、これらの問いを投げかけ、出てきたアイデアを記録していきます。
S: Substitute (置換)
対象の一部または全体を、他の何かで置き換えられないか検討します。
- 現在の材料を別の材料に置き換えられますか?
- 特定の工程や作業を自動化や外部委託で置き換えられますか?
- サービス提供のチャネルをオンラインに置き換えられますか?
- 現在の担当者やチームの役割を入れ替えられますか?
- 会議の形式を対面からオンラインに置き換えられますか?
C: Combine (結合)
複数の異なる要素を組み合わせることで、新しい価値を生み出せないか検討します。
- 既存の二つの機能を組み合わせられますか?
- 製品とサービスを組み合わせた新しい提供形態は考えられますか?
- 異なる部署の専門知識やスキルを組み合わせてプロジェクトを進められますか?
- 現在のプロセスと別のプロセスを統合できますか?
- 複数のアイデアを組み合わせて、より強力な解決策にできますか?
A: Adapt (応用)
既存のアイデアや解決策、自然界の仕組みなどを応用できないか検討します。
- 他業界の成功事例やビジネスモデルを応用できますか?
- 自然界の原理やメカニズムを製品設計に応用できますか?
- 過去のプロジェクトで成功した手法を現在の課題に応用できますか?
- 既存の技術を別の分野に応用できますか?
- 他の文化や習慣からヒントを得て、新しいアプローチを試せますか?
M: Modify / Magnify / Minify (修正/拡大/縮小)
対象の形、色、音、機能、規模、頻度などを変更、拡大、あるいは縮小できないか検討します。
- 製品のサイズや形状を変更できますか?
- 特定の機能を強化(拡大)したり、簡略化(縮小)したりできますか?
- サービス提供の頻度や範囲を拡大または縮小できますか?
- プロセスのボトルネックを拡大視して問題点を明確にできますか?
- コストを大幅に削減(縮小)するために、何を見直すべきですか?
P: Put to another use (別の用途)
既存の製品、技術、知識などを、本来の目的とは異なる別の用途に使えないか検討します。
- 現在製造している部品や技術を、全く別の市場や製品に応用できませんか?
- 不要になった設備や資材を、別の目的で活用できませんか?
- 従業員の特定のスキルを、現在の業務とは異なる新しい業務に活かせませんか?
- 既存のデータを、別の分析目的で活用できませんか?
- 開発したソフトウェアモジュールを他のシステムに転用できませんか?
E: Eliminate (削除)
対象から何かを削除、簡略化、あるいは取り除けないか検討します。
- 製品から不要な機能や部品を削除できませんか?
- プロセスの無駄なステップや承認フローを削除できませんか?
- サービスの提供コストを削減するために、何を取り除けますか?
- 顧客にとって価値の低い要素を排除できませんか?
- 会議の参加者やアジェンダの項目を減らせますか?
R: Reverse / Rearrange (逆転/再構成)
物事の順序、役割、構造などを逆転させたり、並べ替えたりできないか検討します。
- 製造プロセスや作業手順を逆転させたり、順序を入れ替えたりできますか?
- 顧客と提供者の役割を逆転させてみたら、どんな新しい視点が得られますか?
- チームの組織構造や reporting line を再構成できませんか?
- 製品の構成要素の配置を逆転させてみたら、使いやすさや性能は変化しますか?
- 問題を原因から辿るのではなく、理想の状態から逆算して考えられますか?
SCAMPERフレームワークの実践ステップ
SCAMPERは個人でもチームでも実践できます。チームで行う場合は、ブレインストーミングの一環として取り入れることが効果的です。
- 対象の特定: まず、アイデア発想の対象となる製品、サービス、プロセス、課題などを明確に特定します。
- 問いかけリストの準備: SCAMPERの各項目に対応する具体的な問いかけリストを作成します。上記の例を参考に、検討対象に合わせてカスタマイズすると良いでしょう。
- アイデアの発想: 特定した対象に対し、準備した問いかけリストに沿ってアイデアを出していきます。一人で考える時間を持つ、あるいはチームで自由に意見を出し合う時間を持つなど、形式を決めます。この際、質より量を重視し、どんなアイデアでも否定せずに受け入れる雰囲気を醸成することが重要です。
- アイデアの整理と評価: 出てきたアイデアを整理し、実現可能性や対象への適合性などの基準で評価します。似たアイデアをまとめたり、さらに発展させたりするプロセスも含まれます。
- 次のステップへ: 評価したアイデアの中から有望なものを選択し、プロトタイプ開発や詳細な検討といった次のステップに進めます。
実践する上でのポイント
- 問いかけの具体性: 抽象的な問いだけでなく、対象に対してより具体的な問いを投げかけることで、具体的なアイデアを引き出しやすくなります。
- 多様な視点: 一つの問いに対しても、様々な角度から検討することを意識します。
- 記録の徹底: 出てきたアイデアは全て記録します。後で見返すことで、思わぬ組み合わせや発展のヒントが見つかることがあります。
- 批判の禁止(チームの場合): アイデア発想中は、批判や否定的な意見を一切言わないルールを徹底します。自由な発想を妨げない環境が重要です。
- 時間制限: 短時間で集中して行うことで、思考のスピードを上げ、より多くのアイデアを生み出しやすくなります。
ビジネスでの活用例
SCAMPERは、製品開発、サービス改善、業務プロセス改革、コスト削減など、ビジネスの様々な場面で活用できます。
- 新製品開発: 既存製品や競合製品を対象にSCAMPERを適用し、差別化された新機能やコンセプトを発想する。
- プロセス改善: 現行の業務プロセスを対象にE(削除)やR(逆転/再構成)の問いを投げかけ、非効率な部分を特定し、より効率的なプロセスを設計する。
- コスト削減: 製品の部品や材料、製造工程などを対象にS(置換)やE(削除)、M(縮小)の問いを投げかけ、代替案や簡略化の可能性を探る。
- 新規事業アイデア: 既存の自社の技術や資産を対象にP(別の用途)の問いを投げかけ、思いがけない市場や用途を発見する。
製造業においては、製品設計、製造プロセス、サプライチェーン、顧客サービスなど、多くの領域でSCAMPERを適用する機会があります。例えば、既存製品の「材料を置換」して軽量化やコスト削減を図る、「機能を結合」して多機能化する、「製造工程を削除」してリードタイムを短縮する、といった具体的なアイデア創出に繋がります。
まとめ
SCAMPERフレームワークは、デザイン思考におけるアイデア発想を加速させるための強力なツールです。7つの異なる視点からの問いかけは、固定観念を打破し、多様で創造的なアイデアを引き出す手助けとなります。
ぜひ、あなたのチームや個人の発想プロセスにSCAMPERを取り入れてみてください。具体的な問いかけリストを用意し、対象を定めて実践することで、既存の枠を超えた革新的な解決策を生み出すことができるでしょう。