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製造業向け デザイン思考 プロトタイピングの具体的な種類と選定基準

Tags: デザイン思考, プロトタイピング, 製造業, アイデア検証, 製品開発, サービスデザイン

はじめに

デザイン思考の実践において、アイデアを具体的な形にするプロトタイピングは、不確実性を低減し、より良い解決策を導き出すための極めて重要なステップです。特に製造業においては、物理的な製品からデジタルサービス、社内プロセスに至るまで、多様な対象に対するプロトタイピングが求められます。しかし、一口にプロトタイプと言ってもその種類は多岐にわたり、プロジェクトの目的やフェーズ、検証したい内容に応じて最適な手法を選択する必要があります。

本稿では、デザイン思考におけるプロトタイピングの多様な種類をご紹介し、それぞれの特徴を踏まえた上で、製造業のプロジェクトにおける具体的な選定基準と実践のポイントについて解説いたします。適切なプロトタイピング手法を選択し活用することで、チーム内の共通理解を深め、ステークホルダーからの早期フィードバックを獲得し、手戻りを最小限に抑えながら価値の高いアイデアを形にしていくことが可能となります。

プロトタイピングの基本的な目的

プロトタイピングは単にアイデアを「作る」行為ではなく、主に以下の目的のために行われます。

これらの目的を達成するためには、検証したい内容や対象者に応じてプロトタイプの「解像度(Fidelity)」、つまりリアリティや詳細度を適切に調整することが重要です。低解像度プロトタイプは素早く多くのアイデアを検証するのに適しており、高解像度プロトタイプはより詳細なユーザー体験や機能の検証に適しています。

主なプロトタイピングの種類と特徴

製造業のプロジェクトで活用可能な主なプロトタイピングの種類とその特徴をいくつかご紹介します。

1. スケッチ、図、ストーリーボード

最も手軽な低解像度プロトタイプです。アイデアやユーザー体験の流れ、製品の使用シーンなどを絵や簡単な図で表現します。

2. 物理モデル(ラフモデル、機能モデル)

製品や部品の形状、サイズ感、操作感などを確認するための物理的なプロトタイプです。発泡スチロール、段ボール、3Dプリントなど様々な素材で作られます。

3. モックアップ、ワイヤーフレーム

主にデジタル製品(ソフトウェア、アプリ、ウェブサイト)のユーザーインターフェース(UI)や情報構造を示すプロトタイプです。画面遷移や基本的な操作感を確認できます。

4. ロールプレイング、シミュレーション

サービスやプロセス、特定の状況におけるユーザーや関係者の体験を、実際に演じることで再現するプロトタイプです。

5. サービスブループリント

サービス提供の裏側にあるプロセス、担当者、物理的な要素、デジタル要素などを視覚化する図です。顧客体験の各段階と、それを支える内部プロセスを俯瞰できます。

6. MVP (Minimum Viable Product)

製品やサービスのアイデアの核となる価値を最小限の機能で実現したものです。実際にユーザーに提供し、市場の反応や利用データを収集することを目的とします。

製造業プロジェクトにおけるプロトタイピングの選定基準

多様なプロトタイプの中から最適なものを選ぶためには、以下の基準を考慮することが有効です。

  1. プロトタイピングの「目的」: 何を最も検証したいのか(例: 形状、機能、操作性、ユーザー体験、プロセス効率、市場受容性)を明確にします。目的によって、物理モデルが良いのか、モックアップなのか、ロールプレイングなのか、MVPなのかが変わってきます。
  2. 検証対象の「性質」: プロトタイプで表現したい対象が物理的な製品なのか、デジタルなUIなのか、人とのインタラクションを含むサービス/プロセスなのかによって、適した手法は異なります。
  3. 検証したい「解像度(Fidelity)」: どれだけ現実に近い形で検証したいか(例: アイデアのラフなイメージか、詳細な操作感か)。初期段階では低解像度で多くの仮説を検証し、フェーズが進むにつれて高解像度なプロトタイプに移行するのが一般的です。
  4. 利用可能な「リソース」: プロジェクトの時間、予算、チームメンバーのスキル、利用可能なツールや設備を考慮します。迅速な検証が必要な場合は、短時間で作成できる低コストな手法を選びます。
  5. フィードバックを求める「対象者」: 誰からフィードバックを得たいのか(例: チームメンバー、上司、他部署、顧客、協力会社)。対象者にとって理解しやすく、適切なフィードバックを引き出しやすい形式のプロトタイプを選択します。例えば、非技術的な関係者には物理モデルやストーリーボードが有効な場合があります。

これらの基準を組み合わせ、「このプロトタイプで、誰に、何を明らかにするのか」を具体的に定義することで、最適な手法を選択し、プロトタイピングの効果を最大化できます。

製造業での実践例と成功へのポイント

製造業では、製品開発だけでなく、生産プロセス改善、サプライチェーン最適化、顧客サービス向上など、様々な領域でデザイン思考とプロトタイピングが活用されています。

例えば、新しい製造ラインのレイアウトを検討する際に、等身大の段ボールや発泡スチロールで機器や作業スペースを再現し、現場の作業員に実際に動いてもらう「物理モデル&ロールプレイング」のプロトタイプを行うことで、机上では気づけなかった動線の課題や作業負荷の問題点を早期に発見できます。

また、製品に付随する新しいデジタルサービス(例: 遠隔監視、データ分析レポート)を開発する場合、まずモックアップやワイヤーフレームを作成し、想定ユーザーである顧客企業の担当者に操作感や情報の見やすさについてフィードバックを得ます。その後、限定された機能を持つMVPを開発し、実際の利用環境でその有効性やビジネスモデルの妥当性を検証するといった進め方が可能です。

プロトタイピングを成功させるためのポイントは以下の通りです。

まとめ

デザイン思考におけるプロトタイピングは、アイデアを現実世界でテストし、不確実性を低減しながら、よりユーザーやビジネスにとって価値のある解決策を共創するための強力な手段です。製造業においては、物理的な試作品からデジタルツール、サービス体験のシミュレーションに至るまで、多種多様なプロトタイピング手法が存在し、それぞれが異なる目的と状況に適しています。

本稿でご紹介したプロトタイプの種類と選定基準を参考に、皆様のプロジェクトの目的、検証対象、利用可能なリソースに最も合った手法を選択し、積極的な実践を通じて、手戻りの少ない効率的な開発や改善、そしてイノベーションの実現につなげていただければ幸いです。プロトタイピングは試行錯誤のプロセスそのものです。失敗を恐れず、プロトタイプから得られる学びを次のステップに活かしていく姿勢が、成功への鍵となります。