リモート環境で成果を出す デザイン思考ワークショップ 効果的な進め方とツール活用
はじめに
近年、働き方の多様化に伴い、チームでの共同作業やアイデア創出の場もリモート環境へと広がっています。製造業をはじめとする多くの組織において、プロジェクト推進や課題解決のためにデザイン思考のワークショップを取り入れたいと考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、対面での実施が中心と考えられがちなデザイン思考ワークショップを、どのようにすればリモート環境でも効果的に実施できるのか、具体的な方法やツールについて悩まれているかもしれません。
本記事では、リモート環境でデザイン思考ワークショップを実施する際のポイント、各フェーズでの具体的な進め方、そして活用すべきオンラインツールについて詳しく解説いたします。適切に準備を進め、ツールを使いこなすことで、リモート環境でも対面と遜色ない、あるいはそれ以上の成果を出すデザイン思考ワークショップの実現を目指すことが可能です。
リモートでのデザイン思考ワークショップのポイント
対面でのワークショップと比較し、リモート環境での実施にはいくつかの特性があります。これらを理解し、対策を講じることが成功の鍵となります。
- 非言語情報の伝達の限界: 表情や細かなジェスチャーが伝わりにくいため、意図やニュアンスを明確に伝えるための工夫が必要です。
- 参加者の集中力維持: 周囲の環境やオンライン会議特有の疲労(Zoom疲れなど)により、参加者の集中力が途切れやすい傾向があります。
- ツールの習熟度: 複数のツールを切り替えながら使用するため、参加者のツールの習熟度がワークショップの進行に影響を与えます。
- 偶発的なコミュニケーションの減少: 休憩時間やワークショップ前後のちょっとした雑談が生まれにくく、チームの一体感を醸成する機会が減る可能性があります。
これらの特性を踏まえ、リモートワークショップでは、より詳細な指示、こまめな休憩、ツールの事前共有と簡単な説明、意図的なアイスブレイクやチェックイン・チェックアウトを取り入れるといった配慮が重要になります。
各フェーズにおけるリモートワークショップの実践方法とツール活用例
デザイン思考の各フェーズは、リモート環境でも様々なオンラインツールを活用することで実践可能です。具体的な進め方とツールの例をご紹介します。
共感(Empathize)フェーズ
ユーザーへの理解を深めるフェーズです。
- オンラインインタビュー: Web会議ツール(Zoom, Microsoft Teams, Google Meetなど)を使用してユーザーにインタビューを実施します。表情が読み取りやすいように、可能であればビデオをオンにしてもらいます。
- オンラインサーベイ/アンケート: Google Forms, SurveyMonkeyなどのツールで広範囲のユーザーから定量・定性情報を収集します。
- 行動観察の共有: 現場での行動観察の結果を動画や写真で記録し、クラウドストレージ(Google Drive, Dropboxなど)やプロジェクト管理ツール(Trello, Asanaなど)でチームに共有します。
- オンラインホワイトボードでの情報整理: Mural, Miro, FigJamなどのオンラインホワイトボードツールを使用し、インタビュー記録、アンケート結果、観察記録などを集約し、チームで共有・整理します。付箋機能やフレームワークテンプレート(共感マップ、ジャーニーマップなど)が役立ちます。
定義(Define)フェーズ
共感フェーズで得た情報から、本質的な課題を定義するフェーズです。
- オンラインホワイトボードでのアフィニティダイアグラム: 共感フェーズで集約した大量の情報をオンラインホワイトボード上の付箋として貼り付け、チームで共同編集しながらグルーピングを行います。これにより、情報のパターンや隠れたインサイトを発見します。
- POV(Point of View)の作成: グルーピングされた情報から、「誰が」「何を必要としており」「なぜか(インサイト)」という形式で課題を定義します。これもオンラインホワイトボード上にテンプレートを用意し、チームで記述・共有します。
- HMW(How Might We)クエスチョン設定: 定義された課題に対し、「どうすれば〜できるか?」という発想を促す問いを生成します。チャットツールやオンラインホワイトボード上でアイデアを出し合い、問いを洗練させていきます。
発想(Ideate)フェーズ
定義された課題に対して、多角的なアイデアを生み出すフェーズです。
- オンラインブレインストーミング: Web会議ツールで接続し、オンラインホワイトボードの付箋機能を使ってアイデアを大量に生成します。タイマー設定やランダムなグループ分け機能を活用できるツールもあります。
- オンラインでの発想法ツール活用: SCAMPER、マンダラートなどの発想法も、オンラインホワイトボードや専用のWebツール、スプレッドシートなどを活用して実施可能です。例えば、マンダラートのマス目をオンラインホワイトボード上に作成し、チームで共同で埋めていくといった方法があります。
- アイデアの共有と投票: 生成されたアイデアをオンラインホワイトボード上に一覧化し、絵文字リアクションや投票機能を使って、興味深いアイデアや深掘りしたいアイデアを選択します。
プロトタイプ(Prototype)フェーズ
アイデアを具体的な形にするフェーズです。
- デジタルプロトタイプ作成ツール: Webサイトやアプリのアイデアであれば、Figma, Sketch, Adobe XDなどのデザインツールで画面遷移や操作感を示すプロトタイプを作成します。これらのツールは共同編集機能を備えているものが多いです。
- 簡易的なプロトタイプ: アイデアを図や絵、簡単な資料で表現する場合、オンラインホワイトボードや共同編集可能なドキュメント作成ツール(Google Docs, Slidesなど)を活用します。
- 物理的なプロトタイプの共有: 実際に手で作ったプロトタイプは、写真や動画で撮影し、チームやユーザーと共有します。必要に応じてWeb会議ツールで画面越しに実物を見せながら説明します。
テスト(Test)フェーズ
作成したプロトタイプをユーザーに使ってもらい、フィードバックを得るフェーズです。
- オンラインユーザーテスト: Web会議ツールでユーザーと接続し、画面共有機能を使ってデジタルプロトタイプや資料を見せながら操作してもらう、あるいはインタビューを行います。ユーザーの反応を録画・記録します。
- フィードバック収集: オンラインホワイトボードや専用のフィードバック収集ツール(Typeformなど)を使って、ユーザーからの意見や感想を集約します。チーム内でこれらのフィードバックを共有し、プロトタイプの改善点や新たなインサイトを議論します。
リモートワークショップ全体の運営方法
デザイン思考ワークショップをリモートで成功させるためには、ファシリテーションとツールの活用が特に重要です。
- 明確なアジェンダと時間配分: 対面以上に時間の管理が難しいため、各アクティビティの目的、具体的な手順、制限時間を明確に参加者に伝えます。
- ツールの事前準備と説明: 使用するツールは事前に参加者に共有し、必要であればチュートリアルや簡単な練習を行います。ワークショップ開始時にもツールの使い方について簡潔に説明する時間を設けます。
- ファシリテーションの工夫: 参加者全員が発言できるよう意図的に指名したり、ブレイクアウトルーム機能を活用して少人数での密な議論を促したりします。オンラインホワイトボード上でのリアクション機能を活用し、参加者の反応を可視化することも有効です。
- 休憩の確保: オンラインでの長時間のセッションは疲労を招きます。短い休憩を頻繁に挟む、午前・午後に分割するなど、無理のないスケジュールを設定します。
- コミュニケーションチャネルの活用: ワークショップ中の質疑応答や、ワークショップ外での情報共有のために、チャットツール(Slack, Microsoft Teamsなど)やプロジェクト管理ツールを併用します。
成功させるためのヒント
- 少人数での実施: リモートでの大人数ワークショップは進行が複雑になりがちです。可能であれば、参加人数を絞るか、複数の小さなグループに分けて実施することを検討します。
- ツールはシンプルに: 複数のツールを使いすぎると、参加者が混乱する可能性があります。必要最低限のツールに絞り、参加者が慣れているものを選ぶのが望ましいです。
- 技術トラブルへの備え: インターネット接続の不具合やツールの問題が発生する可能性を考慮し、予備の通信環境を用意したり、代替手段を検討したりしておくと安心です。
- 参加者のエンゲージメント維持: 画面共有だけでなく、顔を見ながら対話する時間を確保したり、アイスブレイクや簡単なゲームを取り入れたりすることで、参加意欲を高めます。
まとめ
リモート環境であっても、デザイン思考ワークショップは十分に実施可能であり、アイデア創出や課題解決に強力な力を発揮します。オンラインホワイトボードをはじめとする様々なデジタルツールを適切に活用し、リモートの特性を踏まえたファシリテーションを行うことで、場所にとらわれずにチームの創造性と連携を最大限に引き出すことができます。
本記事でご紹介した具体的な方法やツールを参考に、ぜひリモートでのデザイン思考ワークショップ実践に挑戦してみてください。計画的な準備と柔軟な対応により、きっと新たな発見や価値創造に繋がるはずです。